最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)883号 判決 1953年12月18日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人弁護士盧原常一の上告理由について。
民法六〇五条は不動産の賃貸借は之を登記したときは爾後その不動産につき物権を取得した者に対してもその効力を生ずる旨を規定し、建物保護に関する法律では建物の所有を目的とする土地の賃借権により土地の賃借人がその土地の上に登記した建物を有するときは土地の賃貸借の登記がなくても賃借権をもつて第三者に対抗できる旨を規定しており、更に罹災都市借地借家臨時処理法一〇条によると罹災建物が滅失した当時から引き続きその建物の敷地又はその換地に借地権を有する者はその借地権の登記及びその土地にある建物の登記がなくてもその借地権をもつて昭和二一年七月一日から五箇年以内にその土地について権利を取得した第三者に対抗できる旨を規定しているのであつて、これらの規定により土地の賃借権をもつてその土地につき権利を取得した第三者に対抗できる場合にはその賃借権はいわゆる物権的効力を有し、その土地につき物権を取得した第三者に対抗できるのみならずその土地につき賃借権を取得した者にも対抗できるのである。従つて第三者に対抗できる賃借権を有する者は爾後その土地につき賃借権を取得しこれにより地上に建物を建てて土地を使用する第三者に対し直接にその建物の収去、土地の明渡を請求することができるわけである。
ところで原審の判断したところによると本件土地はもと訴外鴨井ハルの所有に係り同人から被上告人の父平蔵が普通建物所有の目的で賃借し、平蔵の死後その家督相続をした被上告人において右賃貸借契約による借主としての権利義務を承継したが、昭和一三年六月を以て賃貸借期間が満了となつたので、右ハルと被上告人との間で同年一〇月一日被上告人主張の本件土地賃貸借契約を結んだのであるが、その後昭和一五年五月一七日本件土地所有権はハルからその養子である訴外鴨井佳哉に譲渡され、ハルの右契約による貸主としての権利義務は佳哉に承継された。ところが被上告人が右借地上に所有していた家屋は昭和二〇年三月戦災に罹り焼失したが被上告人の借地権は当然に消滅するものでなく罹災都市借地借家臨時処理法の規定によつて昭和二一年七月一日から五箇年内に右借地について権利を取得した者に対し右借地権を対抗できるわけであるところ、上告人は本件土地に主文掲記の建物を建築所有して右土地を占有しているのであるがその理由は上告人は土地所有者の鴨井佳哉から昭和二二年六月に賃借したというのであるから上告人は被上告人の借地権をもつて対抗される立場にあり上告人は被上告人の借地権に基く本訴請求を拒否できないというのであるから、原判決は前段説示したところと同一趣旨に出でたものであつて正当である。それゆえ論旨は理由がない。
よつて民訴四〇一条、九五条、八九条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)